DESIGNERS VOICE 2025SS

2023年秋にスタートしたメンズブランド、RHYTHR(リズル)
「日常にアクセントを」をコンセプトに、手ごろな価格でデザイナーズ級の商品を提供している。
今回はインフルエンサーのゆっきーさんを招き、ブランドの成り立ちや今後の展望について語った。

(左:RHYTHRマネージャー祖父江、中:ゆっきー、右:RHYTHRデザイナー 諸橋)

「本物」の感性を、手の届く価格で提供したいという思いがすべての始まり

ゆっきー  RHYTHR(リズル)の立ち上げは祖父江さんが発起人なんでしたっけ?

祖父江  そうですね、僕は元々OEMという、アパレルブランドさんに商品を作って供給するという仕事をしているのですが、
最近どんなものでも値上がりしてるじゃないですか。そうすると皆そんなにファッションにお金かけられるのかな?って。

実際市場の動向なんかを見ると低価格帯は盛り上がってて、中~高価格帯は少し静かになってるって感じで…
でもやっぱりファッションが好きな人は 良い服を買いたい!っていうニーズはあって…  
高価なブランドはいくらでもあるけど、もっと手ごろな値段で楽しんでほしいと思ったんです。

それで、私たちは先ほど話した通り商品を作る側の人間なので、直接販売すれば中間マージンが無く一般的なブランドよりは安く商品を提供できる。
…という構想はずっとあったのですが、実現に至ったのは共通の知人の紹介で、コレクションブランドの第一線で活躍されてきた諸橋さんとご縁があったからですね。

長年取引のある工場にも私たちの考えに賛同していただき、お互い普段他社ブランド様へお出しする際に頂いている利益は乗せずに、できるだけ低価格で消費者様に届けられていることが叶えられました。

ゆっきー  
諸橋さんはご自身でもMAYKAM(メイカム)というブランドをお持ちですよね。
RHYTHRとMAYKAMはコンセプトが別々だと思いますが、RHYTHRは全体を見ているとワークウェアのような印象を受けます。

諸橋  自分が好きで着ているワークやミリタリーなどカジュアルウェアのほうが説得力もあり力も入ると思い、まずはそこをベースにしています。
ドレッシーなものも好きなのですが、あまり着ないので…
今後型数が増えたりブランドが大きくなればそういった展開が増える可能性もあります。

ゆっきー
 確かに着やすいですし、リアルって感じがしますね。

諸橋  手に取りやすく、実際に買ったあとも長く着られると思います。
カジュアルとはいえど真ん中ではなく、キレイ目な素材を用いたりスラックスやジャケットのディテールを取り入れて上品さも持たせて普段の生活に馴染むようにしています。

ゆっきー  僕もRHYTHR好きです、着たくなるっていうか既に着てますね

諸橋  ありがとうございます(笑)

ゆっきー  デザインのベース自体は普段づかいしやすいワーク系なんですけど、素材がきれい目だったり少し艶感が合ったり…リアルに使いやすいですよね。

デザイナーとしての役割と、商品に込める思い

ゆっきー  ブランドはどのように始まったんですか?

祖父江  最初のシーズン…2023年秋冬ですね。その擦り合わせを始めたとき私はまだ「安くていいもの」といったざっくりとしたイメージしかなかったので、
諸橋さんには安くてそれっぽく見える生地をたくさん提案したんですよ。原料が安ければその分価格もかなり抑えられるので。

ただそれを使ってしまうと、他の安価なブランドと同じように見えるのではないかと諸橋さんに言われまして。

それを聞いて「デザイナーさんって形を作るだけじゃないんだ!」とハッとしたんですよね。
生地選定だけでもたくさんの頭の引き出しがあって、ノウハウが詰まってるんだって。

ブランドとはこれで成り立つんだ!と勉強になりました。
だから本当に最初の構想からは価格が上がってるんですよ(笑)

諸橋  当初祖父江さんに聞いていた設定上代は意識していたので、実際に選定した生地で作った場合の値段を聞いたときは、「ん!?高すぎる!」と思ったんですが、
それだったらこの選んだ生地でどれだけ価値感を出せるかという考えに切り替えました。

祖父江  私も諸橋さんの力を最大限に落とし込みたくなったんで、計画を修正しました。
今はこのポジショニングにしてよかったと思っています。
あとはこれを伝えていかなきゃですね。


ゆっきー  聞きたい方は多くいると思いますよ。
このアイテムにどんな思いを込めて作っているのか、ストーリー性というか。
そうじゃないと大量生産品と紛れてしまうと思うんですよ。

祖父江  ディテールひとつひとつに理由があるのを諸橋さんから聞くと、手前味噌ですが商品の価値がぐっとあがるんですよね(笑)

諸橋  僕にとってはあたりまえのようなこと…もちろん自分の中では考えて作ってるんですが。
それを伝えるまでの意識がないんですよね、なので周りの人に言ってもらえると本当にありがたいです。

ゆっきー  どんな思いで作られたものかを聞くとめちゃくちゃ価値が上がると思います。
それって服に限らず食べ物とかも同じじゃないですか。

祖父江  「この野菜はどこどこの有機野菜農家さんが作りました!」とかね!

ゆっきー
  そうそうそう(笑)実際そうだと思います。
選択肢が多い世の中だからこそ、そういうのがあるだけで違いますよね。それが強いブランドほど人気が出るような気がします。

諸橋  以前までは良いものを作れば売れる、という気持ちがあったんですが、時代はそうじゃないと周りからも言われ自分自身でも感じるようになりましたね。

表現って得意不得意とか、あとは予算がどれだけあるかでも変わってきますけど…それだと言い訳になってしまうんで。
今の環境の中でできることをやっていければと思っています。

祖父江
 お陰様でゆっきーさんをはじめたくさんの発信者さんや横のつながりが生まれて本当に感謝しています!

ブランドを継続するために必要なバランス

ゆっきー  素材にこだわったという話でしたが、追及しようと思えばきりがないですよね、ただそうなると先ほどの話の通り価格も上がっちゃいますよね。

諸橋  そうですね、今は全ての値段が上がっているので…原料、工賃、人件費、細かいことを言えば光熱費、運賃なんかも。
これがモノ作りに影響してくるっていうのはありますね。

ゆっきー  原価が上がると商品価格も上がらざるを得ないですよね

祖父江  セールスに関してはかなりシビアに考えてますね、売れなければ続けられないですから。

諸橋  そうですよね。そこに関しては営業や経営陣だけでなく作り手も常に考えないと、でも他とどう差別化をつけるかバランスを取らなければならないので大変なところではあります。

祖父江  次のシーズンはオリジナルボタンなど、付属にもこだわりたいという話がありましたね。
商品のグレードは上げて価格は上げない、という信念で頑張りたいと思っています(笑)

リアル感を7割、デザイナーズ感を3割
トレンドを追い求めすぎず、ブランドとしての統一感と日常への取り入れやすさ

ゆっきー  リズルの価格帯って消費者からするとありがたいですよ

諸橋  一般的なセレクトショップのオリジナル商品と比べると安価だと思います。
それにデザインもここまで出来なかったり。とはいえやりすぎちゃうと合わせにくくなるし。

なのである程度着易く、遊び心も入れてブランドとして面白くするというのは意識しています。

「この価格でこれは安いよね」と感じてもらえるようにしています。

ゆっきー  着てみるとそれは感じますね。僕自身も、僕のフォロワーさんからのDMでもそういった感想をもらいます。

諸橋  実際皆さん普段はどんなところで服を買うんですか?

ゆっきー  ユニクロはもちろん多いですし、ドメブラもたまに買います。

でもやっぱり価格的に頻繁に変えるものではないですね…

諸橋  そうですよね。デザイナーズブランドが好きな方に向けてはシーズンのデザイン物を差していきたいですし、定番では物足りない人にはほんの少しディテールのあるものを、みたいな。

そこをブランドとしてバランスをとって提案できたらベストだと思っています。

祖父江  ブランド”らしさ"を出すのを大切にしてますよね。ただの”カジュアル”とか”きれい目”とかそういうざっくりとしたものではなくて。
売れ筋を追求すると服の向いてる方向がばらけちゃうと思うんですよ。

リズルのいいところはコレクションの中でテーマ性とか共通点がちゃんとあって、どれを組み合わせてもバチっと成り立つようになってます。

変な言い方をすると”脳死でコーデできる”みたいな(笑)

あまりお金をかけずに、ちゃんとした服が欲しいという人は多いと思うんです。ただその選択肢が少ないような気がして。
定番やトレンドど真ん中はある程度安く手に入ると思いますが、そうではないものの選択肢ですね。

ゆっきー  極端ですよね

祖父江  商品の開発をするとき、上がったサンプルがまず私のところに届くんですが、開けたときはまだ「ふむふむ」って感じなんですよね。

で、着ると「かっこいい…!」ってなるんですよ。ちょっと語彙力なくて説明できないんですけど(笑)

後々シーズンのコレクションが揃ったときはもう最高なんですよ!

諸橋  あまりブランドブランドすぎてもいけないと思っています。

リアル感を7割、デザイナーズ感を3割…デザイナーズブランドは反対の比率だと思います。

ゆっきー  ブランドとしての世界観を出しながら、親しみやすさも持たせるという感じですね

諸橋  人気ブランドのSNSを見ていると、トレンド性やリアル感を前面に押し出してるものをよく見ます。

価格も手ごろだし見せ方はすごく上手い、でもそれとは差別化するためにリズルでは3割デザイナーズ感を入れる。

リアルの中に面白さをどう入れるか…まさに「日常にアクセントを」ですね

ゆ・祖   『おお~~~!!!』

諸橋  ただ、まだそれを発信しきれていないので、着てくれる方・発信してくれる方の意見や力をもっとお借りしたいと思っています。

ゆっきー  じゃあ僕が先ほど話したSサイズの袖丈の件(後述)なんかは…

諸橋  それ本当に大事なんですよ、Sサイズの需要があるのは感じてはいるんですが、それが丈なのか幅なのかわからなかったので…すごく参考になる意見だったと思います。

思いがけないSサイズの需要

祖父江  サイズといえば、今期の定番Tシャツは要望の多かったXLサイズを作りましたね。

諸橋さんが携わられていたデザイナーズブランド、グレーディングって何サイズでした?

諸橋  4サイズくらいですね

ゆっきー  リズルは基本M・Lサイズですよね、ぜひSサイズを!(笑)
 
祖父江
 やっぱりSサイズって需要有ります?

ゆっきー  ありますあります!僕の知人のブランドも低身長サイズにかなり特化してますし、人気があるので需要は高いと思います。
 
祖父江  私も別の方から似た話を聞きましたね。それに低身長の方のほうが服への情熱が高いような気もします

諸橋 
合うものが少ないから求めてる、っていうのもあるんですかね?

ゆっきー  そうなんですよ!市場にあんまりなくて。

特に海外向けにも展開しているブランドだと少し大きめなことが多いので、そこで困ることもありますね。

諸橋  最近はゆったりめのアイテムが多いので、ジャストサイズで着たい方からの需要もありそうですね。

そしたら、次シーズンはアイテムによってSサイズ展開をしてみるのもいいですよね。

祖父江  やっぱりパンツですかね?

ゆっきー  パンツもそうですが、袖丈が長すぎることがあるんですよ。

諸橋  確かに…今のリズルの商品もワイドなものが多いので、そこは意識してSサイズを作りたいですね。

ゆっきー  期待しています!

もっとたくさんの方に手に取ってもらえる場を

祖父江  やっぱり実際に見て頂かないと伝わらない部分が多いですよね。

商品に自信はあるけど見てもらう機会が全然足りてない。

諸橋  以前祖父江さんも言ってましたが、各都市でのPOPUPとか、手に取ってもらえる場面を増やしたいですね。

今は展示会形式ですが、その場で買ってもらえるようにするとか。

ゆっきー  フォロワーさんから「遠方なので行けない」というDMをいただいたりもしますね。

祖父江  POPUP、各地でできたらいいですね!

祖父江大生(そふえひろお)

RHYTHRブランドマネージャー

2012年、heufosk(ヒュウフォスク)株式会社設立。
数々のアパレルブランドとの取引を経て、ニット・布帛・カットソー・雑貨・アンダーウェアなどオールアイテムの供給網を確立。
2019年よりブランド運営事業を開始。

ゆっきー

Uniqlo公認インフルエンサー/Wearブランド公認ユーザー

SNSを中心に、リアルな大人男性に向けたコーディネートを提案。再現性の高さに定評がある。
近年ではファッションメディアの運営も開始。
Instagram:@yukio_coffee

諸橋和之(もろはしかずゆき)

日本を代表するコレクションブランドにて10年間にわたり在籍、その後自身のブランド[MAYKAM]を立ち上げ、ニットウェアの新しい可能性と価値観をコンセプトに、従来のニットウェアを再解釈したアプローチや、横編みと丸編みの融合、日常生活と共存したデザインの探求を行う。
MAYKAM Instagram:@maykam_official